SNS 使用と関係満足度の研究 - Valenzuela (2014) の知見

ソーシャルメディアと恋愛関係の質の関連は、2010 年代以降に研究が蓄積してきた領域⁠で⁠す⁠。Valenzuela, Halpern, & Katz (2014) の大規模調査研究では、Facebook の使用頻度と関係満足度の間に弱い負の相関が確認されま⁠し⁠た⁠。ただし、この関連は単純な因果関係ではなく、SNS の「使い方」によって効果が大きく異なることが示されてい⁠ま⁠す⁠。

Clayton, Nagurney, & Smith (2013) の研究では、Facebook の使用が関係に与える影響を媒介する変数として「Facebook 関連葛藤」を特定しま⁠し⁠た⁠。SNS 上でのパートナーの行動 (元恋人との交流、異性からのコメントへの反応、関係ステータスの非公開など) が葛藤の引き金となり、それが関係満足度の低下につながるという経路が示されてい⁠ま⁠す⁠。

一方、Utz & Beukeboom (2011) の研究では、SNS を通じてパートナーへの愛情を公に表現すること (「関係のオンライン表示」) が、関係満足度の高さと結びつく場合があると報告されてい⁠ま⁠す⁠。つまり、SNS は関係を脅かすツールにも、関係を強化するツールにもなりえ⁠ま⁠す⁠。その効果を決定するのは、使用者の性格特性、使用パターン、そしてカップル間の SNS に関する合意の有無⁠で⁠す⁠。

Coyne, Stockdale, Busby, Iverson, & Grant (2011) の研究では、テクノロジーの使用に関するカップル間のルール (暗黙的 / 明示的) がある場合に、テクノロジー関連の葛藤が少ないことが報告されてい⁠ま⁠す⁠。SNS の使用について事前に話し合い、互いの期待と境界線を明確にしているカップルは、SNS 関連の葛藤が少ない傾向があり⁠ま⁠す⁠。

パートナー監視行動と神経症的傾向の関連

SNS 上でのパートナー監視 (partner surveillance) は、恋愛関係における最も問題的な SNS 使用パターンの一つ⁠で⁠す⁠。Muise, Christofides, & Desmarais (2009) の研究では、Facebook の使用が嫉妬感情を増幅させるメカニズムとして、パートナーの活動を監視する行動が特定されま⁠し⁠た⁠。パートナーの投稿、いいね、コメント、友人リストを頻繁にチェックする行動は、不安と嫉妬の悪循環を生み出し⁠ま⁠す⁠。

Marshall, Bejanyan, Di Castro, & Lee (2013) の研究では、愛着不安が高い人ほど SNS 上でのパートナー監視行動が頻繁であることが示されてい⁠ま⁠す⁠。愛着不安の高さは神経症的傾向と強く関連しており、神経症的傾向が高い人は「パートナーが自分以外の誰かに関心を向けているのではないか」という不安から、SNS を監視ツールとして使用しやすくなり⁠ま⁠す⁠。

Fox & Warber (2014) の研究では、パートナー監視行動が「情報の非対称性」を生み出す点が問題として指摘されてい⁠ま⁠す⁠。監視者はパートナーの SNS 活動について詳細な情報を持っているが、その情報の文脈 (なぜその人にいいねしたのか、その写真の背景は何か) を知りま⁠せ⁠ん⁠。この文脈の欠如が、否定的な解釈と不必要な嫉妬を生み⁠ま⁠す⁠。

Tokunaga (2011) の調査研究では、SNS 上のパートナー監視が関係満足度の低下、嫉妬の増大、侵入的行動の増加と関連することが確認されてい⁠ま⁠す⁠。監視行動は一時的に不安を軽減するが、長期的には不安を維持 / 強化する「安全行動」として機能し、不安の悪循環を断ち切ることができま⁠せ⁠ん⁠。

「関係のオンライン表示」の心理学

カップルが SNS 上で関係を表示する行動 (プロフィール写真にカップル写真を使う、関係ステータスを公開する、パートナーに関する投稿をするなど) は、「関係のオンライン表示 (relationship visibility) 」と呼ばれ、複雑な心理的機能を持ち⁠ま⁠す⁠。Papp, Danielewicz, & Cayemberg (2012) の研究では、関係のオンライン表示の頻度と関係満足度の間に正の相関が確認されてい⁠ま⁠す⁠。

しかし、Emery, Muise, Dix, & Le (2014) の研究では、関係のオンライン表示の動機が重要であることが示されてい⁠ま⁠す⁠。「パートナーへの愛情を表現したい」という内発的動機に基づく表示は関係満足度と正の関連を示すが、「他者に見せつけたい」「パートナーの所有権を主張したい」という外発的動機に基づく表示は、関係の不安定性と関連し⁠ま⁠す⁠。

関係の安定に不安があるときほど、公的な関係表示によってその不安を埋めようとしやすくなり⁠ま⁠す⁠。「みんなに見せることで、この関係が本物であることを確認したい」という気持ちが働いているなら、表示の頻度そのものよりも、その不安がどこから来ているのかを話し合うほうが先⁠で⁠す⁠。

カップル間で関係のオンライン表示に対する期待が異なる場合、葛藤が生じやすくなり⁠ま⁠す⁠。一方が積極的に関係を公開したいのに他方がプライバシーを重視する場合、「なぜ私たちの関係を隠すのか」「なぜすべてを公開しなければならないのか」という対立が生まれ⁠ま⁠す⁠。この問題は、SNS に関するカップル間の明示的な対話によって予防可能⁠で⁠す⁠。

SNS 上の元恋人との接触問題

SNS は元恋人との接触を容易にし、これが現在の関係に影響を与えることが複数の研究で示されてい⁠ま⁠す⁠。Tong (2013) の研究では、Facebook 上で元恋人と「友達」のままでいることが、現在の関係への未練の維持と関連することが報告されてい⁠ま⁠す⁠。元恋人の近況が定期的にフィードに表示されることで、「もしあの時別れていなかったら」という反事実的思考が喚起されやすくなり⁠ま⁠す⁠。

Marshall (2012) の研究では、元恋人の Facebook ページを閲覧する頻度が高い人ほど、元恋人への未練が強く、現在の精神的健康が低いことが示されてい⁠ま⁠す⁠。SNS は「きれいな別れ」を困難にし⁠ま⁠す⁠。物理的には距離を置いていても、デジタル空間では元恋人の存在が常に可視的であり、心理的な距離の確保が妨げられ⁠ま⁠す⁠。

現在のパートナーにとって、相手が元恋人と SNS 上でつながっていることは嫉妬と不安の源泉となりえ⁠ま⁠す⁠。Cravens, Leckie, & Whiting (2013) の研究では、パートナーが元恋人と SNS 上で交流していることを知った場合、関係への信頼が低下し、監視行動が増加することが示されてい⁠ま⁠す⁠。

この問題への対処としては、SNS 上の元恋人との接触について明示的に話し合い、双方が納得できるルールを決めておくのが現実的⁠で⁠す⁠。「元恋人をブロックすべきか」「いいねやコメントはどこまで許容されるか」といった具体的な境界線を事前に合意しておくことで、不必要な葛藤を予防でき⁠ま⁠す⁠。

ビッグファイブと SNS 使用パターン

性格特性は SNS の使用パターンを大きく規定し、それが恋愛関係への影響を媒介し⁠ま⁠す⁠。Seidman (2013) の研究では、ビッグファイブと Facebook 使用行動の関連が詳細に検証されてい⁠ま⁠す⁠。

外向性が高い人は SNS の使用頻度が高く、投稿数が多く、友人数が多い傾向があり⁠ま⁠す⁠。恋愛関係の文脈では、外向性の高い人は関係のオンライン表示に積極的であり、パートナーとの写真や出来事を頻繁に共有し⁠ま⁠す⁠。これは関係の可視化を通じた社会的承認の獲得として機能するが、パートナーのプライバシー感覚と衝突する場合があり⁠ま⁠す⁠。

神経症的傾向が高い人は、SNS 上での社会的比較行動が頻繁であり、他のカップルの投稿を見て自分の関係に不満を感じやすくなり⁠ま⁠す⁠。Appel, Gerlach, & Crusius (2016) の研究では、SNS 上の「理想化されたカップル像」への曝露が関係満足度の低下と結びつきやすいことが指摘されてい⁠ま⁠す⁠。他のカップルの幸せそうな投稿を見て「自分たちの関係は劣っている」と感じる「上方比較」が、不満と嫉妬を増幅させ⁠ま⁠す⁠。

調和性が高い人は SNS 上での攻撃的な行動 (炎上への参加、否定的コメント) が少なく、パートナーの SNS 活動に対しても寛容な態度を示す傾向があり⁠ま⁠す⁠。誠実性が高い人は SNS の使用時間を自己管理する能力が高く、SNS への過度の没入による関係への悪影響を受けにくくなり⁠ま⁠す⁠。開放性が高い人は多様な SNS プラットフォームを使用する傾向があり、パートナーとの「デジタルライフスタイル」の共有を楽しみ⁠ま⁠す⁠。

社会的比較と関係満足度の低下メカニズム

SNS が恋愛関係に与える最も有害な影響の一つが「社会的比較 (social comparison) 」⁠で⁠す⁠。Festinger (1954) の社会的比較理論に基づけば、人間は自己評価のために他者との比較を行う傾向があるが、SNS はこの比較の機会を爆発的に増加させま⁠し⁠た⁠。

Vogel, Rose, Roberts, & Eckles (2014) の研究では、SNS 上の他者の投稿が「上方比較」を引き起こし、自尊心と生活満足度を低下させることが実験的に示されてい⁠ま⁠す⁠。恋愛関係の文脈では、他のカップルの「完璧な」投稿 (豪華な旅行、サプライズプレゼント、ロマンティックなデート) を見ることで、自分の関係が「平凡」「退屈」に感じられるようになり⁠ま⁠す⁠。

しかし、SNS 上の投稿は現実の選択的な切り取りであり、葛藤や困難は通常共有されま⁠せ⁠ん⁠。Chou & Edge (2012) の研究では、Facebook の使用頻度が高い人ほど「他の人は自分より幸せだ」と信じる傾向が強いことが示されてい⁠ま⁠す⁠。この「幸福の過大推定」が、自分の関係への不当な不満を生み出し⁠ま⁠す⁠。

De Vries & Kühne (2015) の研究では、SNS 上の社会的比較が関係満足度に与える影響が、個人の自尊心水準によって調整されることが示されてい⁠ま⁠す⁠。自尊心が低い人 (神経症的傾向が高い人に多い) は、他のカップルとの比較によってより大きな打撃を受け⁠ま⁠す⁠。一方、自尊心が高い人は、他のカップルの投稿を見ても自分の関係の価値を相対化されにくくなり⁠ま⁠す⁠。

デジタルデトックスの効果と実践的アプローチ

SNS の過度な使用が関係に悪影響を与えることが明らかになる中、「デジタルデトックス」の効果に関する研究も蓄積されてい⁠ま⁠す⁠。Tromholt (2016) の実験研究では、1 週間の Facebook 断ちが生活満足度と幸福感の有意な向上をもたらすことが示されま⁠し⁠た⁠。特に、SNS 上での社会的比較傾向が高い人ほど、デトックスの効果が大きかったと報告されてい⁠ま⁠す⁠。

カップルにおけるデジタルデトックスの効果について、McDaniel & Coyne (2016) は「テクノフェレンス (technoference) 」 - テクノロジーによる対面コミュニケーションの妨害 - の概念を提唱してい⁠ま⁠す⁠。パートナーとの会話中にスマートフォンを確認する行為 (phubbing) が、関係満足度の低下と葛藤の増加に関連することが示されてい⁠ま⁠す⁠。

Roberts & David (2016) の研究では、パートナーからの phubbing (partner phubbing) が関係満足度を低下させ、うつ症状を増加させることが確認されてい⁠ま⁠す⁠。「目の前にいるのにスマートフォンを見ている」という行為は、「あなたよりスマートフォンの方が重要だ」というメッセージとして受け取られ、情緒的な拒絶として経験され⁠ま⁠す⁠。

実践的なアプローチとして、以下の戦略が研究で支持されてい⁠ま⁠す⁠。第一に、「テクノロジーフリーゾーン」の設定⁠で⁠す⁠。食事中、就寝前の 1 時間、デートの時間など、特定の時間帯や場所でのスマートフォン使用を双方の合意のもとで制限し⁠ま⁠す⁠。第二に、SNS の通知をオフにし、チェックする時間を意識的に限定し⁠ま⁠す⁠。第三に、パートナーの SNS 活動を監視する衝動が生じた際に、その衝動の背後にある感情 (不安、嫉妬、退屈) を認識し、直接的なコミュニケーションで対処し⁠ま⁠す⁠。第四に、定期的な「デジタルデトックスデート」を設け、テクノロジーなしで互いに集中する時間を確保し⁠ま⁠す⁠。